顔人が喜んだ領分だけが、本当の利益だと思う

自然に囲まれた八王子という「顔」

杉野 福廣 さん

八王子の「顔」をストリートから変えていく

――北海道からこちらにいらして長年お仕事をされてきたわけですが、現在の八王子をどんなふうにご覧になっていますか?

34年、八王子にいて最近感じるのは、駅はきれいになったし街は少しずつビルが建ったりして活気もそれなりにありますけれど、道路にゴミが多くなったなっていうことですね。街を顔に例えれば、道路が汚いというのは皮膚が汚い、顔も洗わないってことですよ。肌がつるつるじゃなかったらお化粧も乗らないし、さわやかにならない。そういう意味でまず道路をきれいにしたい。私たちも京王八王子駅前をたまに掃いたりしているんですけれど、やっぱりゴミが無いところから「ストリート」が出来ていくと思うし、お店がストリートの一つの単位となって各店が活気にあふれていれば、自然といい街だな、とお客様が来るようになる。住んでいる人、仕事をしている人が一個の人間としてそんなことをやって行くところから、街としてのまとまりが出来ていくのかな、と思うんです。今は行政などの街作りの高度な話が優先され過ぎていて、ゴミを拾うみたいな簡単な話がないがしろになっている気がします。でも簡単なことこそすべてに通じるし、だから逆に難しいんですが、それをすごく大事にしたいな、と思いますね。

八王子についてお客様とお話する機会があるんですが、周りの都市がグンと発展したために八王子は取り残されているような感じがするとよく言われますよね。また、八王子には顔が無い、とおっしゃる人もよくいます。顔っていうのは輪郭があって、目や鼻や口がある。八王子は2、300mの山に囲まれた街で、すごく緑が豊かでその中心を立派な川が流れていますよね。高尾山もあって東京の中にあって自然に恵まれている。これはすごく立派な顔になれる大事な要素のはずですが、それをないがしろにしてしまっているんじゃないでしょうか。この八王子の自然をもっともっと大事にして、町田や立川と競争して行くよりも、違うやり方があるんじゃないかと思うんです。


浅川に鮎(あゆ)を上らせたい

5年くらい前、すごく天気のいい日にたまたま大和田橋の欄干から浅川を眺めて、ああ綺麗だな、と思いながらもちょっとぞっとしたんです。川に人が誰もいないんですよ。私が子供の頃、北海道ではみんな川で遊んでいて、小さい頃は浅瀬で小さな稚魚を日本手ぬぐいですくったりしていた。それから小魚を釣るようになって、鮒に始まってだんだん難しい釣りが出来るようになって、同時に川で転んで溺れかかったりもして、今思うと水の優しさや厳しさとかいろんなものを川で教えてもらったし、体験しました。だから八王子の浅川に子供はおろか誰も人がいないのが寂しいんですね。

今の子供はゲームに夢中で自然の中で遊ぶことが無いのかもしれないけれど、それに気づいた人間が「川に来いよ」、「川って楽しいぞ、川で遊ぼうぜ」という提案をしながら、お父さんたちも一緒になって子供たちと遊んだり、魚を採ったり出来ないか、と思うんです。そうすれば、大人というもの父親というものを自然に伝えられる場みたいなものもできるだろうし、山に行ってキャンプして自然の中で寝泊りしてそこで火をおこしたり、自然の中で親子が触れ合うことが、八王子なら十分に出来るんじゃないかな、と思うんです。そういう自然は、お金に換えられないものじゃないですか。

――たしかにおっしゃる通りです。何かお考えがあるでしょうか?

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※イメージ写真
私の究極の願いは、浅川に鮎を上(のぼ)らせたいんですよ。どうすればいいのかはまったく分からないですけれども(笑)。最近、多摩川には上っているという非常にいい情報があるんですね。新聞にも多摩川に鮎の稚魚が元気よく上っている写真が出ていた。実際には八王子市などが関わらないと無理なのかもしれないし、川のゴミを拾うくらいしか思いつかないけれど、八王子の市民のみんなが、よし、やろうぜ、となったら、鮎は多摩川に来ているんだから浅川に上らないわけが無いでしょう。20キロくらい上流の水源も含めて、浅川はずっと八王子市を流れてきているわけですから、市民がその気になれば何とかなるはずですよ。

そうなれば他所からも人が八王子来るようになるし、公害の時代からバブル期まで人間が好き勝手に汚くしたものを徐々に徐々に綺麗にしていくには、今が本当にチャンスじゃないでしょうか。本当は遅いのかもしれないけれど、自然をもっともっと見直して、何か出来ないか、と思うんです。それは自分の子供のためというよりその先の、孫に何を残せるか、自分が死んでその後に何が残せるか、ですね。そういう想像って、わくわくしますね。

地域に根付く喜び

残す、伝えるという意味でとても嬉しいのは、今うちには4人、八王子に生まれ育った子供たちが、スタッフとして勤めてくれていることですね。これは今までは無かったことなんです。やっぱり地元ですから、お父さんお母さんのジャッジがすごく大きいと思うんですが、スタッフとして入る前からご両親がよく来てくださっていて、そういうつながりで、現在ここで一緒にやらせてもらっている。ご両親に認められたっていうことは、大きく言えば地域にも認められたのかな、という喜びがあるんですよね。そういう意味で私は本当に贅沢で幸せな仕事をやっているな、と思いますね。

お出しするお食事についても、これから八王子の農家さんといろいろ話しをして、地のものを活用しながら、これが八王子なんだよ、と言えるものを作っていけたらな、と考えています。そういうものってたくさんあると思うんですよ。

第3話「お互いの心根を感じあう『ビジネス』」に続く