顔八王子中屋ボクシングジム 会長 中屋 廣隆さん インタビュー

第3話ボクサーというプライド

中屋会長

強くなるために

――ホームページに、中屋ジムにはボクサーとして「強くなるシステム」が整っている、と書かれていましたが。

トレーニングして半年1年でプロボクサーになれる、と言っているジムもありますが、うちは逆で、プロになりたい人は時間をかけてボクサーにします。その成功率が高いですよ、ということです。

小学生、中学生で入ってきた場合は、まず身体を大切にするのが第一ですので、スパーリング(試合形式の打ち合い)はやらせません。最初はプロやアマチュアの強いお兄さんを相手に殴るだけの練習で、その段階ではまだ殴られる痛みは知らなくてもいいんです。最初に恐怖心が植えつけられちゃうとなかなかボクシングが出来ないんですね。まず時間をかけて、打ち方のフォームを覚えてもらう。ただ殴る時の気持ちだとか、殴られるとどれくらい痛いかっていうのはうすうす感じるわけです。その段階ではそれでいいんですね。高校生でも入門したてはそういう練習をします。




試合に出られる段階では、今度は自分も殴られるわけですからディフェンスを覚えなくちゃいけない。そこでディフェンスの練習をさせて、試合に臨む設定が出来て初めてスパーリングをやります。最初はちょっと恐怖心もありますし、実際に痛い思いもするようになる。そうやって実戦の練習に移ってからアマチュアで何試合かやります。高校生なら卒業するまでに、一般の人でも1年間くらいの間に何試合かを経験して、その間に向かないなと思った人は辞めていくこともありますが、それまでにじっくり一年以上かけるわけです。

プロテストまでさらに1年ぐらいトレーニングします。だからプロテストで落ちる人はまずいません。われわれ教える側はプロテストの時点ではさらに先のことを考えてやっています。

プロになると4回戦から始まって、レベルが上がるにつれて6回戦、8回戦と回数が増えていきます。この4回戦クラスで新人王戦というトーナメントがあって、ここで優勝すると日本ランキングに入ります。われわれは今年デビューする子に来年の新人王戦を見据えた計画的なマッチメイクをします。プロデビュー後1年で何試合かやり、新人王戦に臨みます。そこで思うような結果が出せなくても翌年もう一回挑戦出来ます。こうやって新人王を取るのがチャンピオンになる一番の近道なんです。それぞれのレベルに応じてシステマチックに教えていく、ということですね。



ジム内の様子
ジム内の様子

「心の勲章」を持ち続けて

――ボクシングは激しいスポーツですから現役の期間、選手生命が結構短いですよね。現役引退後はボクシングにどんな関わりを持つんでしょうか。

ボクシングは年齢制限もあるし、失敗すると身体を痛めますから、そういう危険な賭けが出来るのは若い時しか無いんですよね。一生ボクシングに関われる人は少ないと思います。世界チャンピオンであっても悔いを残して辞めるのがボクシングです。チャンピオンになれるのは本当にごく一握りですから普通のボクサーはましてや、ですよね。それで未練を持って、でもボクシングをやったことを心の勲章として、プライドを持って生きていく人がほとんどじゃないでしょうか。


――「心の勲章」とおっしゃいましたが、もちろん会長ご自身もお持ちだと思うんですが、そのことについてもう少しお話いただけますか?


ひたすら練習を続ける

やっぱり、ボクサーって格好いいし、男と生まれたら一度はやってみたいスポーツだと思うんですよね。つまり命に関わることをやっているわけだから。ボクシングはもともとは素手に近い闘いで、イギリスで19世紀半ばを過ぎた頃、第8世クィンズベリー侯爵の名を冠した「クインズベリー・ルール」が作られてグローブ着用、10カウントのKOなどによって、現代化、スポーツ化したんですが、実は昔の状態をまだ引き摺っているわけです。

それは普通の人から見たら非日常的な世界ですよね。また他の格闘技と比較すると、たった二本の腕しか使えない。歌人の俵万智がボクシングは定型詩と似ている、と言ったのを読んで本当にピンと来たんですが、つまり短歌の五七五七七みたいな決められた枠内の表現だから、すごく洗練される、深く追求出来るということだと僕は思うんですよ。

そういう誰でもが出来るわけじゃないことを自分はやれた、という思いですよね。で、結局最後はみんな負けて辞めて行く。そうでなければみんな続けていますよ。世界王座13度防衛の具志堅用高さんだって、たった一回の敗北で辞めたわけだから、結局みんなどこかで傷を負って辞めるんです、それは心の傷を含めてね。

ただ敗北しても、やっぱりどこかでボクサーとしてのプライドを持っていて、たぶん心は永遠にボクサーだと思うんですね。でも負けを知っているから優しくなれる。変な言い方ですが、それは本当じゃないかな、と思います。

でも、現役後に社会に復帰する時はもう30ぐらいですよね。学校を出て現役を10年やって、そこからまた、社会で一般の人と一からの勝負ですから、ある意味かなわないですよね。普通のサラリーマンのような生活に戻るのは非常に難しいかもしれません。最近は警察官の年齢制限が30歳までになったので、公務員としての道が一つ開けましたけれど。

だからみんなどうしているんですかね、そういうプライドを持ちながら。でもそういうものがある、というだけでも生きる価値はあると思いませんか?


――そうですね、今のお話をうかがって、その生き方にはすごく憧れますね。


熱気で窓が曇り、やがて滴となって流れ出す

ただ、対人関係において、やっぱりリングの上で人生が懸かった戦いをしていたら、どこかで度胸が据わってくるということはありますね。人と対した時にしり込みしない。実生活においても、どこかでそういうことが役に立ってくるんじゃないかな、とは思いますね

――どうも今日は有難うございました。日本、東洋太平洋チャンピオンと輩出して、残っているのは世界チャンピオンですね。

斉田ジムではトレーナーとして日本チャンピオン、東洋太平洋チャンピオンを獲りましたし、ここでも日本と東洋太平洋は獲ってますから、無いベルトは一つです。是非取りたいですね。それを目指してやっています。

――近い将来に八王子からチャンピオンが出ることを期待しています。
<了>