顔商店街の賑わいを次の世代につなげたい

第1話

「物」が売れない時代

―― 戦後と現在ではご商売の傾向がだいぶ変わってきていると思いますが?

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江戸時代からの敷地を生かした店舗。
江戸時代は間口割で税金が決まったため、間口を狭くし奥行きをとる店が多かったという。

戦後の成長期はある意味で必然的だったと思います。明治から大正、戦争前の昭和と文化の爛熟した時代を経て、戦争で何もかも、ぺっちゃんこになって、時代を引っ張っていくはずの人たちまで亡くなった。ものに囲まれていた生々しい記憶があるのに目の前には何も無いんですから、金さえあれば、あれもこれも欲しい、ですよ。そういう下地があっての一から出直しだったから、物があれば何だって売れたんです。戦後みんなが夢中で働いて、その後は戦争にも巻き込まれなかったから、発展は当然だったと思います。

だから、かつては売れない商品は見切ればちゃんと売れたけれど、今は見切ったって誰も買わないですよね。そういう物に対する執着心は隔世の感があります。商売は、不足している物を買いやすい値段で補ってあげたらうまく行く。これは鉄則ですね。ところが間に合っているものを安くしておきますからと言ったって、ウルサイって言われますよ。それが今なんですね。今は、本来なら商売の種にあまりならない「親切」とか「癒し」とか、お宅は世間話が出来るから、とかが喜ばれるんですよ。品揃えと品質が良くて安い、っていうのが以前は繁盛店のキーワードでしたが、そんなのはもう当たり前ですから。これは世界にウチしか無いんだ、というものなら、中には物好きがいて、いくらなんだい? 安くないぜ、だからいくらだい、ってまるで落語ですよ(笑)。


インターネットで変わった商いのインフラ

パソコンは最初、計算やワープロとかが出来る便利な機械という認識でしたが、ここ10年くらいでインターネットが俄かに脚光を浴びて、今やそちらが中心的な役割じゃないでしょうか。つまり商売の方向性が変わり始めたらインフラまで変わってきてしまった。それでさらに混沌としながら、変化のスピードがものすごく速くなってしまった。それが現在、私どもも含めて町の多くの店の抱えている悩みだし、環境じゃないでしょうか。

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豊富な品揃えで「町の便利店」を体現

―― インターネットだとある意味で全国展開が出来ますが、商店街は町に密着していて、実際に地元のお客さんにどうやって物を買ってもらうかがすごく大きい問題ですね。

インターネットを主にした商売なら、お客様が店の前を通る場所でやる必要性は無いですよ。もっとコストが安いところでやった方がソロバンも合います。人通りがあるところで商いをするのは、その人たちに何かアピールする狙いがあるわけでしょう。だから今店を構えている方がインターネットもやるのは、私は「過渡的な姿」ではないかと思っているんです。二足のわらじだから打たれ強いぜ、という人もあるでしょうが、例えば全国展開した専業のスーパードラッグは、製薬会社に価格と商品を指定して作らせて、収益源にしている。ところが一般の小売業だと、価格決定権はおおむねメーカーにあって、その範囲内での商売ですよね。そこに強い競合が出来てくるともう適わない。結局、専業で大きくなったところが商売は強いんです。インターネットも特化してやった方が結局情報も身のかわし方も速い。かたや店舗をやりながら一方夜なべでインターネットでは、いくら優秀な人でも第二次大戦のアメリカと戦ったみたいに限界があります(笑)。

今はお客様のニーズががんがん変わって行くし、今までの常識を超える要求をされるようになった。良い悪いや好き嫌いはちょっと脇に置いておいて、その時代の多くの人がこうだって思うものについて行かないと、商いも孤立しちゃう感じなんですよ。もう一つインターネットは、情報収集も仕入れも大きなところから順繰りに完全に電子化されています。ところが個人企業に近い業界や卸問屋さんは、いまだに番頭さんですよ。二極化がはっきりしたんですよね。だから町のお店は、商品情報はインターネットで一所懸命やっても、売るのは人と相対することで考えないと、お店で買うのがいい、っていう人も満足いかないような中途半端な売り方になってしまう。それはこれからさらに3年、5年、10年たてばはっきりするだろうと思います。


町中の店の必要性を再認識する

―― 地元で小売をされている店はその売り方があるだろう、ということですね。

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半地下、中二階、二階と、店内は正面の入口からは想像できない広さ

ええ。お店で売る商売は無くなってしまうのか、っていうと、私は絶対そんなことは無いと思うんですよ。一昔前には自動車社会になれば、みんなが郊外に住んでショッピングセンターに車で買いに行く、アメリカがそうだから日本もそうなるに違いない、と言われていたのが、どうやらもう転換点にきている。どこに行くのも自動車では、若い人はいいけれどご年配になれば億劫だし、バスがあるから平気だなんて言っていると、路線廃止でその基盤がある日突然無くなってしまう時代になっていますでしょう。今やコンパクトシティとかで、既存のインフラを上手に使ってお金をあまりかけずに、町中に多くの人が安心して住めるほうがいい、という時代になってきたような気がします。

そうなれば、かつての商店街に全部戻ることはないと思いますが、町中のお店の必然性が出てくるでしょう。ただ、お客さんの望むものが、もう品物はいらない、マンションで置き場もないし、なんて時代ですから、形のあるものだけを一所懸命売ろうっていうのは難しいかな、何か値打ちをくっつけるといいのかな、と思いますね。